大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和50年(行ツ)94号 判決 1976年4月27日

上告人

木下富雄

右訴訟代理人

柏崎正一

外一名

被上告人

熊本西税務署長

渡部克己

右指定代理人

貞家克己

外八名

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人柏崎正一、同野村宏治の上告理由三について

納税者が、課税処分を受け、当該課税処分にかかる税金をいまだ納付していないため滞納処分を受けるおそれがある場合において、右課税処分の無効を主張してこれを争おうとするときは、納税者は、行政事件訴訟法三六条により、右課税処分の無効確認を求める訴えを提起することができるものと解するのが、相当である(最高裁昭和四二年(行ツ)第五七号同四八年二六日第一小法廷判決・民集二七巻三号六二九頁参照。なお、最高裁昭和四〇年(行ツ)第一〇六号同四二年五月二六日第二小法廷判決・訟務月報一三巻八号九九〇頁は、確定申告にかかる所得税額等を減額した更正処分の無効確認を求める訴えを「行政事件訴訟法三六条が無効等確認の訴えの提起を許した場合に該当しない」との理由で不適法としているが、右のような減額更正処分については、被処分者はその無効確認を求める法律上の利益を有せず、その理由において右更正処分の無効確認を求める訴えは不適法たるを免れない(同条参照)のであつて、右判決理由もその趣旨を判示したにとどまるものと解されるのである。されば、当裁判所の前示判断は、右判決に牴触するものではない。)。

そこで、右の見解に立つて本件をみるのに、原判決によれば、上告人は本件課税処分にかかる所得税及び入場税をいまだ納付していないことがうかがえるというのであるから、上告人は、右課税処分に続く滞納処分を受けるおそれがあるものというべく、したがつて、本件課税処分無効確認の訴えは適法である。しかるに、原審が右訴えを不適法として却下したのは法律の解釈適用を誤つたものであり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが、明らかである。論旨は理由があり、原判決中本件課税処分無効確認請求にかかる訴えを却下した部分はこれを破棄し、右請求の当否について更に審理判断させるためこれを原審に差し戻す必要がある。そして、主位的請求である右課税処分無効確認請求について原判決が破棄差戻を免れない以上、予備的請求である本件課税処分取消請求についても当然に原判決は破棄差戻を免れない。

よつて、その他の上告理由に論及するまでもなく、原判決を全部破棄し、これを原審に差し戻すこととし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条、三九六条、三八八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(江里口清雄 天野武一 高辻正己 服部高顕)

上告代理人柏崎正一、同野村宏治の上告理由

一、二<略>

三、原判決理由中、第一項「確認訴訟の適法性について」に対して

(一) 原判決は、明らかに最高裁判所昭和四二年(行ツ)第五七号所得税賦課処分無効確認等請求事件昭和四八年四月二六日第一小法廷判決に相反し、かつ、行政事件訴訟法に違背する。

即ち、原判決は行政事件訴訟法三六条について、(1)控訴人は争いになつている本件入場税及び所得税は何れも未納付であることが窺われるので、右各処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつてその目的を達することができる。とし、(2)当該法律関係の帰属主体は国であり、本訴は国を被告とするものではないから不適法なものとして排斥を免かれないという。

しかしながら、前掲最高裁判決は、その理由第四項中において次のとおり説示する。即ち、

「課税処分についても、行政上の不服申立手続の経由や出訴期間の遵守を要求しないで、当該処分の効力を争うことのできる例外的な場合の存することを否定しているものとは考えられない。すなわち課税処分についても、当然にこれを無効とすべき場合がありうるのであつて、このような処分については、これに基づく滞納処分のなされるおそれのある場合等において、その無効確認を求める訴訟によつてこれを争う途も開かれているのである(行政事件訴訟法三六条)。」

また、右判決は、国を被告としたものではなく、神奈川税務署長を被告したものである。

(二) つまり前掲最高裁判決は、「これに基づく滞納処分のなされるおそれのある場合」といつており、当該税金が未納付の場合であることは明らかであつて、かかる場合に「無効確認を求める訴訟によつてこれを争う途も開かれている」とし、さらに、「行政事件訴訟法第三六条」を引用しているのである。

従つて、将しく、本件無効確認の訴訟と同一の場合というべきものであり、原判決が税金未納付を理由として行政事件訴訟法三六条の場合にあたらないとするのは、前掲判例と相反し、かつ、前記法令に違背するものであるといわざるを得ない。

(三) また、被告を国にすべしというが、前掲判決は処分庁である神奈川税務署長を被告とするものであり、本件課税処分についても処分庁である熊本西税務署長を被告とするものであつて、前者が適法でみるのに後者が「不適法なものとして排斥を免れない」とするのは、明らかに前掲最高裁判決に相反するものであつて破棄を免れない。

(四) 原判決は、右二点の理由以外に「その他、控訴人の主張する事情が、本件無効訴訟が許容される事由にあたるとも解しがたい」とするが、前掲判例は、右二点以外に無効訴訟を許容する特別の事由があるとしているわけではなく、進んでその実体関係を審理判断して「不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合」には、前記の過誤によるカシは、「当該処分を当然無効ならしめるもの」としている。

従つて、原判決が、控訴人の主張する事情が何故無効確認訴訟を許容する場合にならないのかについて理由不備のそしりを免かれないばかりでなく、前掲判例に照らし、その実体関係を審理し当然無効ならしめるような不当性の有無を判断することなく、漫然本請求を却下したことは法令違背、判例相反の誤りをおかしたものといわざるを得ない。しかして、上告人の主張する本件処分を当然無効ならしめる例外的事情については、別紙最終進備書面一〇頁以外のとおりである。

(五) なお、無効確認請求は、第二審においてはじめて追加したものではなく、記録上明らかなとおり、つとに第一審当初の訴状において無効確認請求をしていたのであつて、これが一審途中において撤回を余儀なくされたのは、前掲最高裁の判決前であつて、当時においては「課税処分の無効ということはないのだ」というのが定説であつたわけで(判例時報No.七五九号三二頁、解説欄参照)、前掲最高裁判所が判例時報によつて紹介されたのが昭和五〇年一月一日号である。従つて、上告人にしても、つとに無効を主張した事由について、ここであらためて無効確認訴訟の途も開かれていることを知つたのであり、直ちにその旨の申立に及んだ次第であつた。

四、以上の理由によつて、原判決は破棄されるべきものである。

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